1. 起源と初期の流派

　盆石の源流は、中国・唐漢時代の「占景盤」「縮景盤」にあります。日本には推古天皇期（6世紀末〜7世紀初頭）に伝来したとされています。
日本においてこれを体系化し、「盆石」として完成させたのは天武天皇（673–686）です。天武天皇は「清見原天皇」とも呼ばれ、その名に因み流派を「清原流」と称しました。

　また、天武天皇の臣・竹屋光昭中納言が興した「竹屋流」、さらにその子が日野家・風早家に養子として入り「日野流」「風早流」を分立しました。結果として初期には清原・竹屋・日野・風早の四流が並立しましたが、技術的には相互に大差なく、規則や作法にわずかな相違があったのみと伝わっています。

　一方で竹屋流を「元祖」とする説も存在します。理由は、臣下が天皇在世中に清原流を新設するのは不忠にあたるのに対し、天皇が竹屋流を改変し清原流を立てることには合理性があるからです。このため、竹屋流を起点とする見解に説得力があるとされています。

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2. 相阿彌の登場と文化的役割

　室町時代に登場する相阿彌（姓・中尾、名・真相、大永5〔1525〕没）は、竹屋流から分かれて「相阿彌流」を創設しました。号は松雪斉・鑑岳です。相阿彌は絵画にも秀で、「瀟湘八景屏風」「孔老二聖画像」「大仙院襖絵」などを残しました。長寿で百歳近くまで存命したとされています。

　相阿彌の祖父・能阿彌（真能）は浅倉氏の出で、足利家に仕え「唐物奉行」となりました。唐物奉行は輸入美術品（絵画・磁器・漆器など）の鑑定を担う役職であり、能阿彌・相阿彌父子は中国文化に精通する当代随一の知識人でした。能阿彌・相阿彌共著の『君代観左右帳記』には、中国画家の等級や唐・宋・元の書院装飾法が詳細に記録されています。

　能阿彌は足利義満の命で金閣寺造営に際し、庭園や池を盆石で再現して造園の参考にしたことが『笈埃随筆』に記録されています。その子・芸阿彌（真芸）は義持に仕え、さらに相阿彌真相が父の職を継ぎ、八代将軍足利義政に仕えました。義政が銀閣寺を新築する際、義満の故事にならって相阿彌に盆石を打たせたと伝わっています。ただし、実際の作庭は善阿彌によるとも言われており、相阿彌の盆石は参考にとどまった可能性もあります。

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3. 室町文化と盆石

　室町期には盆石は華道・茶道・香道と結びつき、上流社会における芸能文化の一環として披露されました。盆石の景に和歌の短冊を添える習慣や、謡曲と組み合わせる例もありました。大正3年（1914）、小矢部市愛宕神社の奉納盆石額に謡曲が記されていることからも、能楽との共演が確認できます。

　しかし、義満没後には衰退し、文明年間（1469頃）にはほぼ滅亡状態となりました。義満の孫・足利義政は文化人であり、茶道・盆石の復興に尽力しました。相阿彌流盆石はこの復興期に成立したとされています。義政は葛盆・丸盆の規格を定め、茶道具の匙で波や浜を描く作法を残したと伝わっています。